判例コラム

法律に詳しいスタッフが、これまでの興味ある判例に対して私見等を述べる場です。

子に嫡出性を付与するための婚姻の効力  書き込み24/1/8

事案について 昭和44年10月31日  最高裁第二小法廷判決    
 昭和28年9月以降Y女は大学生Xと結婚を約束しあう仲になった。ところがXの両親に結婚を反対されたが、2人の関係は続き昭和29年9月までに3度妊娠を中絶した。昭和32年3月、Xが大学を卒業して他県に就職したが、その頃Yは4度目の妊娠をした。同年11月Yは出産する決心をして上京し、X名義で家を借りる一方、Xは休日にYを訪れたり、送金をしながらYを励ましていた。同年12月、YはA女を出産しXが命名した。その後もXは手紙や時にはお金送っていたが、その後B女との間に結婚の話が持ち上がり、式の日取りも決まった。XはYとの関係を清算するため、Yと会ってBと結婚する旨を伝え、Y宅でYの家族らを交えた話し合いをした。その結果せめて子供だけでも入籍させたいというYの強い希望で、一旦Yとの婚姻届を出して子を入籍し、後に離婚するという便宜的手続きを認めざるを得なくなり、その旨の誓約書が作成された。昭和34年10月27日、XとYとの婚姻届がだされた。同月29日、XはBと挙式して共同生活を始め、その後Yとは戸籍のことで書簡の交換をするにとどまった。
 XがYに対し婚姻無効の訴えを提起した。

判決 上告棄却(婚姻無効の請求を認容)
解説  当事者に婚姻する意思がないときは婚姻は無効です(民法742条)。「婚姻をする意思」とはどのようなことをいうのでしょうか。事案5の「離婚をする意思」とは離婚届を提出しようとする形式的な意思のことを言いました。
 裁判所は「『当事者間に婚姻をする意思がないとき』とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すものと解すべき」としました。
 つまり、「婚姻をする意思」とは、婚姻の届出を提出する意思に加え、夫婦関係を欲する効果意思のことを言います。したがって、本件のように、Aに嫡出子としての地位を得させるための便法として婚姻の届出についての意思の合致はあったが、XにはYとの間に真に夫婦間家の設定を欲する効果意思がなかった場合には、婚姻の効力が生じません。

生活保護の受給を継続するための方便として提出された離婚届の効力  書き込み23/12/18

事案について 昭和57年3月26日  最高裁第二小法廷判決    
 Xと亡A(夫)は婚姻関係にあったが、Aが病気で倒れ収入の道が絶たれたため、生活保護金を受給し、Xの収入とあわせて家族の生活費とAの療養費に当てていた。ところが、市の担当者からXの収入は保護金から差し引かれるべきこと、当該収入の届出をしないと不正受給になる旨を告げられ、XとAは従前の不正受給の額の返済を免れ、かつ引き続き従前と同額の生活保護金の支給を受けるための方便として、離婚の届出をした。Xは届出後も実質上はAと夫婦であると思い、A死亡後もAの債務を支払い、Aの遺骨も引き取り、法要も主催した。その後Xは前記XA間の離婚無効確認請求をY(検察官)に対して行った。
判決 上告棄却(X敗訴)
解説  離婚届を提出した当事者に離婚をする意思がなければ当然離婚は無効です。明文はありませんが当然の帰結と考えられています(民法742条類推)。問題は「離婚をする意思」の中身です。本件のように、生活保護金の受給を継続する等の方便として離婚をしながら夫婦同様の共同生活を続けていた場合にも、離婚をする意思が認められるのでしょうか。
 裁判所は「本件離婚の届出が、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであって、本件離婚を無効とする事はできない」
と判事しました。
 つまり目的はどのようなものであれ、離婚届を提出しようとする形式的な意思がある限り離婚は成立するということです。他にも強制執行を免れる目的でなされた離婚も有効に成立します。逆に「離婚をする意思」が認められない場合とは配偶者の知らないところで勝手に離婚届を出してしまう場合等があげられます。
 この結論は結婚をする場合と大きく結論が異なります。次回は結婚バージョンを書いていきます。

女性の再婚禁止期間の合憲性  書き込み23/12/8

事案について 平成7年12月5日  最高裁第三小法廷判決    
 1988年12月1日に前夫と調停離婚したXは、その直後から同居して事実上の婚姻関係にあったZと1989年3月7日に婚姻届を提出したが、Xが民法733条の定める女性の再婚禁止(待婚)期間を経過していないとして、市長は届出を受理しなかった。X・Zは民法733条は憲法14条1項(法の下の平)等に反するとして、国会が同法を改廃しないことは国家賠償法1条1項に違反するとして国に慰謝料請求をした。
判決 上告棄却
解説  女性は前婚の解消又は取り消しの日から6ヶ月を経過しなければ再婚をすることができません(民法733条1項)。これは女性だけに適用される条文です。男性は離婚したその日に新しい女性と再婚することができます。この男女間の差は憲法14条1項の「すべて国民は…性別…において、差別されない」と記載されてる部分に反するのではないのか、ということが問題となりました。
 この主張に対し裁判所は「合理的な根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは憲法14条1項に違反するものでなく、民法733条の立法趣旨が、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解される以上、国会が民法733条を改廃しないことが直ちに…国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない」と判事しました。
 三権分立の下、裁判所はよほどひどい内容の法律でなければ国家賠償法上の違法にあたらないとしています。女性が妊娠に気づかず離婚し、すぐに再婚した場合には前夫の子か新夫の子かわからず、色々な問題が発生してしまいます。民法733条はそのような問題の発生を防止する目的で作られたので、よほどひどい内容の法律ではないと裁判所は判断しました。しかし、父性の推定は民法772条2項の規定から再婚禁止期間を100日おけば重複しません(少しややこしいので説明は省きます)。また今日ではDNA鑑定等の技術が発達し父親がわからなければDNA鑑定をすれば問題は生じません。したがって学界では違憲であるという見解が大多数となっております。また、男性18歳、女性16歳の婚姻適齢の差(民法731条)も今日では違憲の疑いが濃いとされています。 近い将来、これらの規定が変わるはずです。

どぶろく裁判  書き込み23/11/28

事案について 平成元年12月14日  最高裁第一小法廷判決    
 無免許で酒類を製造した者には刑事罰(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)が科される。免許の要件としては、税務署長による裁量的拒否要件の他、年間製造見込み数量が法定製造数量に達しない場合には免許を付与しないことが定められている。この結果、自己消費目的のための酒類製造は事実上不可能な状態におかれている。
 本件被告人は、無免許で清酒等を自家製造した容疑で起訴され有罪判決を受けた。2審も控訴棄却したため、これを不服とする被告人が上告を行った。
判決 上告棄却
解説  日本では自分で飲むためであってもお酒をつくってはいけません。しかし自分で飲む目的であれば誰に迷惑がかかるわけでもないのに、一切お酒をつくれないのはおかしくないでしょうか?個人の自由権を侵害してるとも思えます。本件被告人はまさにお酒を作れなくしている法律(酒税法)が憲法に違反していると主張しました。
 それに対して裁判所は、「自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予測されるため、酒類製造を一律に免許制とし、無免許で製造した者を処罰することも憲法に違反しない」と判示しました。
 つまり勝手に個人でお酒を造られると税金が取れなくなるから、作っちゃダメよということです。野菜を勝手に作って食べることはいいのにお酒はいけません。この違いは生活必需品か嗜好品かの違いと高等裁判所は指摘しています。お酒好きな私としましては何とも悲しい判例です。

被害者の同意  書き込み23/11/18

事案について 昭和55年11月13日 最高裁第二小法廷決定
 Xは、交通事故を装って保険金(入院給付金)を詐取することをAほか2名と企て、Aほか2名が乗車するライトバンにXの運転する自動車を追突させる事とした。その際、本物の事故に見せかけるため第三者Bの運転する自動車を間に入れて玉突き事故を起こす事とし、Xは自車を故意にBの車両に追突させ、その勢いで同車を前に押し出してA運転のライトバンに追突させ、Aほか2名及びBに傷害を与えた。
判決 抗告棄却(Xに業務上過失傷害罪確定)
解説  被害者の方が被害にあうことに同意していた場合、犯罪は成立するでしょうか?例えば全く知らない人に「携帯電話壊していいですか?」と尋ね相手が「ちょうど捨てようと思っていたのでいいですよ。」と同意してくれ、実際に壊した場合器物損壊罪は成立するでしょうか?常識的に考えれば相手が同意しているので成立しなさそうですよね。その通り、犯罪は成立しません。
 では本判決のように怪我をすることに同意していた場合で、保険金を詐取することを目的として自動車事故を起こし怪我をさせた場合に業務上過失致傷罪は成立するでしょうか?この場合も先ほどの例と同様に考えれば、怪我をすることに被害者が同意していたので業務上過失致傷罪は成立しなさそうです。しかし裁判所は業務上過失致傷罪の成立を肯定しました。怪我をすることに同意した場合でも、その動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度等を考慮して業務上過失致傷罪が成立するか決めると判事しました。その上で本件では、同意が保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであるから業務上過失致傷罪が成立する、というものでした。つまり怪我をすることが好きな人に頼まれて、殴って怪我をさせても傷害罪は成立せず、保険金を取るために、相手の同意のもと殴って怪我をさせると傷害罪が成立するということです。保険金を取れば詐欺罪が成立するとしても、目的の違いで傷害罪の成否が異なるのは妙な感じがしませんか?

尊属殺重罰規定判決  書き込み23/11/8

事案について 昭和48年4月4日  最高裁大法廷判決    
 A子(被告人)は14歳の時に実父に姦淫され、以後10年以上夫婦同様の生活を強いられて5人もの子供を生んだ。29歳になって職場の同僚である青年と愛し合い、正常な結婚を考えるようになったところ、実父はこれを嫌い、あくまでもA子を支配下において醜行を継続しようと、10日あまりにわたって脅迫虐待した。このため、A子は懊悩煩悶の極に陥り、その状況下で、いわれない暴言に触発されて、この忌まわしい境遇から逃れようと実父を絞殺し、自首した。
判決 破棄自判(懲役2年6月執行猶予3年)
解説  平成7年の刑法改正の時まで尊属殺人を普通殺人と区別して特に重く処罰することを定め、法定刑として死刑と無期懲役のみを定めていました(違憲判決後、本条は適用されていない)。すなわち、どんな事情があろうと尊属を故意的に殺害した場合には執行猶予が一切つきませんでした。子が親を殺すと必ず実刑になるのに親が子を殺した場合には執行猶予がつくこともありえたのです。この不平等極まりない条文は一体何なのでしょう。
 では本判決に話を戻しましょう。本事案でA子さんは極めてひどい扱いを10年以上耐え忍び、肉体的にも精神的にも限界を超えやむにやまれず実父の殺害にいたりました。法律に従えばA子さんには執行猶予がつかず実刑判決が下されます。しかしそれではあまりにもA子さんが可愛そうです。そこで弁護士は旧刑法200条の尊属殺の規定が憲法14条1項(法の下の平等)に違反してると主張し、裁判所は旧刑法200条は法定刑が199条(普通殺人)と比べて著しく不合理であるとして憲法14条1項に違反して無効との判決を下しました。その結果、A子さんには執行猶予がつくことになりました。
 この判例は憲法を学んだことがある方なら誰でも知っているかと思いますが、刑法の規定を変えるきっかけになるほど重大な事件でしたので始めに記載させていただきました。これから面白い判例を書かせていただきますのでよろしくお願いします。


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